2009年2月の保育
−ちいさな天使たちの歌声−
皆さんはベートーベンという音楽家をもちろんご存じでしょう。先日、彼についてこんな記事を読みました。彼が作曲家として世に認められながらも、徐々に聴力を失いかけたころ、彼は一人の目の見えない娘と出会いました。彼女は暗闇の世界に住んでいるのですが、一度でいいから、夜空に光る月というものを見てみたいと言うのでした。目は見えるけれども、音楽家として聴力を失いかけて、絶望の淵にあったベートーベンは、自殺を考え、遺書まで用意していたといいます。心を病んでいたベートーベンの心に、目の見えないその人の言葉がどのように届いたのかはわかりません。けれども、彼は絶望の淵で「月光」を書き上げました。
皆さんも、「月光」の出だしの三つの音を聞いたことがあるでしょう。静かに、静かに奏でられる三連譜に重なっていくように、強い思いをあらわすようなメロディが奏でられていきます。それは、目の見えない娘、耳の聞えないベートーベン、それぞれに与えられたさだめがありながらも、それでも見たい、聞きたいという願いのような、叫びのような、それでも運命を受け入れざるを得ない悲しさに充ちた旋律です。
ベートーベンと、その娘に、どんなドラマがあったのかはわかりません。けれども、彼女の目には見えないけれども、心の目には白く光る月が見えたことでしょう。ベートーベンにとっては、月の光を見つめながら、心の中でその旋律がかなでられていたでしょう。
2月28日、私たちの幼稚園で音楽会が催されます。わが子、孫の歌い、奏でる音楽は、何よりも心をいやしてくれるものだと思います。私たち大人のように、まだ生きる苦しみも、挫折も知らない彼らの奏でる音楽、歌声は、天使の歌声のように思えるかもしれません。
今、世の中はたくさんの悲しい出来事、経済の問題など、明るい未来を思い描けない状況です。保護者の中にも、その苦しみの中にあるご家庭があるかもしれません。または、外からは幸福に見えて、何か苦しみを抱えているご家庭があるかもしれません。
神さまのところからやってきて、まだ数年しかたっていない無垢な魂の子どもたち。彼らの歌声、彼らの奏でる音楽を聞きにいらしてください。悩み、苦しみのない人生はありません。お父さん、お母さん、おじいさん、おばあさん、お一人お一人が何かを抱えて生きているのだと思います。どうぞ、子どもたちが懸命に練習した成果を見てくださるとともに、ご自身の心をいやすためにも、無垢な魂が奏でる音楽を聞きにいらしてください。